東京高等裁判所 平成2年(ネ)4442号 判決 1993年5月13日
控訴人
鈴木方十
右訴訟代理人弁護士
海渡雄一
同
福田護
同
岡部玲子
同
千葉景子
被控訴人
社会福祉法人相模福祉会
右代表者理事
菅沼順一郎
被控訴人
大島麟
右両名訴訟代理人弁護士
岡昭吉
右当事者間の地位確認等請求控訴事件について、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
一 原判決中、被控訴人社会福祉法人相模福祉会に関する部分を次のとおり変更する。
1 被控訴人社会福祉法人相模福祉会は、控訴人に対し、金五九万九九四七円及びこれに対する昭和五九年八月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 控訴人の同被控訴人に対するその余の請求を棄却する。
二 控訴人の被控訴人大島麟に対する控訴及び当審において拡張した請求を棄却する。
三 訴訟費用は、控訴人と被控訴人社会福祉法人相模福祉会との間では、第一、二審を通じ、これを一〇分し、その一を同被控訴人の、その余を控訴人の負担とし、控訴人と被控訴人大島麟との間では控訴費用を控訴人の負担とする。
四 この判決は、控訴人勝訴部分に限り仮に執行することができる。
事実
(申立て)
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 控訴人が被控訴人社会福祉法人相模福祉会(以下「被控訴人法人」という。)との間で労働契約上の地位を有することを確認する。
3 被控訴人法人は、控訴人に対し、金二六四三万一八三〇円並びにうち金四四三万五七〇二円に対する昭和五九年八月二一日から及びうち金二一九九万六一二八円に対する平成二年一一月一七日から右支払済みまで年六分の割合による金員を支払え(二一九九万六一二八円に対する附帯請求部分は当審で拡張されたものである。)。
4 被控訴人法人は、控訴人に対し、平成二年一二月一日以降、毎月一六日限り、一か月金二八万五六六四円の割合による金員を支払え。
5 被控訴人らは、控訴人に対し、連帯して金七七〇万円及びこれに対する昭和五九年八月二一日から右支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
6 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
7 第3ないし第6項につき、仮執行の宣言。
二 被控訴人ら
1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
(主張)
当事者双方の主張は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。
1 原判決二枚目裏九行目から同一〇行目にかけての「就任し、さらに」を「、」と、同三枚目表二行目の「に経理係長になり」を「総務課経理係長(のち、事務局総務部経理係長)に就任し」と改め、同行の「以降」の次に「事務局総務部」を加え、同九行目の「労働組合日本社会福祉労組相模福祉分会」を「日本社会福祉労働組合神奈川県支部相模福祉会分会」と、同一〇行目の「果たすとともに」を「果たし」と、同裏一行目の「間もなく」を「間もないころから」と、同六行目の「従来の」から同一〇行目の「命じ」までを「被控訴人法人では、従来貸借対照表は全体として一本のものを作成していたのを本部、助葬事業、相模福祉センターの三部門に分離して貸借対照表を作成することを計画し、これに反対する控訴人から経理関係の仕事を取り上げようと図った。そして、直接控訴人の部下の経理課員に対して控訴人への不服従と三部門に分離した貸借対照表の作成を命じ」と、同四枚目裏一行目の「原告」から同三行目の「原告とは」までを「控訴人を孤立させるため、被控訴人法人の職場内において、職員が共同して控訴人と絶交することを計画し、昭和五七年秋頃から、被控訴人法人の職員に対し、控訴人とは」と、同六行目の「の扱いを」を「同様の対応を」と、同五枚目表九行目の「分」を「損害」と改め、同裏四行目の末尾に「その支給日は一二月五日、三月一五日及び六月一五日である。」を加え、同六枚目表三行目から同四行目にかけての「昭和五九年六月末日」を「平成二年一一月末日」と、同五行目の「四四三万五七〇二円」を「二六四三万一八三〇円」と、同六行目の「よって」から同末行の「昭和五九年七月一日」までを「よって、控訴人は、被控訴人法人との間で労働契約上の地位を有することの確認を求めるとともに、被控訴人法人に対し、平成二年一一月末日までの未払賃金等二六四三万一八三〇円及びうち昭和五九年六月末日までの分金四四三万五七〇二円に対する弁済期日の後である昭和五九年八月二一日から、うち同年七月一日以降の分金二一九九万六一二八円に対する弁済期日の後である平成二年一一月一七日から右各支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金並びに同年一二月一日」と、同裏三行目の「のちであり、訴状送達の日の翌日である」を「後である」と改める。
2 原判決七枚目表一行目の「従来の被告法人の会計処理を、」を「被控訴人法人では、従来全体として一本のものを作成していた貸借対照表を」と、同四行目から同七行目の「ものである。」までを「部門ごとに分離した貸借対照表は、社会福祉法人経理準則により被控訴人法人においても作成する必要があったが、経理課長である控訴人の職務怠慢と無理解により作成がされないままとなっていた。しかし、神奈川県(以下「県」という。)の指導もありようやく実現したものである。」と、同九行目の「前記の」を「従前申告していなかった被控訴人法人の相模福祉センターにおける結婚式場の提供等の事業による収益につき」と改め、同一〇行目の「対処」の前に「十分」を加え、同裏五行目から同六行目にかけての「放り出し、」を「放棄し、県庁や市役所に」と、同八枚目表一行目の「上げ」を「挙げ」と、同五行目の「ろくにせず」を「十分にできず」と、同裏五行目から同六行目にかけての「(一)の事実のうち、賃金の支払方法は認め」を「事実のうち、賃金の支払時期及び控訴人に対し昭和五八年一二月に支給すべき賞与のうち五九万九九四七円が未払であることは認め」と改め、同一〇行目の末尾に「なお、同年一二月期に支給すべき右賞与五九万九九四七円は控訴人の受領拒絶により未払となっているものである。」を加え、同一〇枚目表二行目の「以内」の次の「の」を削り、同八行目の「解雇日」の次に「である同年一二月二九日」を加え、同裏二行目の「その他の同月」を「同年六月二三日から同月二六日、同月二八日から同年七月一六日、同月二一日から同年八月」と改め、同一二枚目裏一行目の「ので」から同二行目の「従う」までを削り、同一三枚目裏五行目の「での原告の辞職案のみを」を「の支払による控訴人の辞職案だけを解決案として」と、同一四枚目裏二行目の「転任割愛に法人が」を「転任に法人として」と改め、同八行目の「による」の次の「の」を、同一五枚目表五行目の「現在の」を削り、同九行目の「別れ」の次に「に」を、同裏一行目の「判断し、」の次に「控訴人に対し」を加える。
(証拠関係)
原審及び当審記録中の証拠関係目録記載のとおりであるからこれを引用する(略)。
理由
一 次のとおり付加、訂正するほか、原判決理由の説示と同一であるから、これを引用する。
1 原判決一六枚目表末行の「第五一」から同裏一行目の「一ないし三」までを「第五一号証、乙第一、第七、第八」と改め、同二行目の「第三四、」を削り、同三行目から同四行目にかけての「第五六号証」の次に「の一ないし五」を加え、同五行目の「第六六」から同六行目の「作成部分、」まで、同一〇行目の「、第七八」を削り、同一七枚目表三行目の「証人」の前に「控訴人作成部分の原本の存在及び成立については争いがなく、弁論の全趣旨によりその余の部分の原本の存在及び成立が認められる乙第六九号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第六三、第七四号証、」を加え、同四行目から同五行目にかけての括弧書きを削り、同八行目から同一八枚目表四行目の「及んだ。」までを次のとおり改める。
「被控訴人法人は、事業資金を得るため、相模福祉センターにおいて結婚式場の提供等の事業を行っていたが、その事業について法人税の申告をしないでいた。ところが、相模原税務署は、昭和五六年一月被控訴人法人に対し、相模福祉センターが行っている右事業は、昭和三三年六月一一日及び昭和四一年四月二一日付各厚生事務次官通知で定められた範囲を越える収益を目的とする事業であり、これによって著しく利益剰余金を得ている疑いがあるとの理由で税務調査を実施した。
公益法人等の本来の目的である事業であっても収益事業に該当する場合には法人税が課せられることについては、昭和五六年一一月二〇日付国税庁通達(昭和五六年直法二―一六)によっても明確にされた。
これに対し、控訴人は右結婚式場の提供等の事業は、社会福祉法人としての被控訴人法人本来の事業に含まれるものであって、その事業による所得に対して法人税は課せられず、したがって申告の必要はないとの見解を主張して調査官からの右申告をするようにという勧告にも応ずる必要はないとの見解に終始していた。
しかし、結局、被控訴人法人は、同年一二月二五日、同税務署長から昭和五三年四月一日から同五六年三月三一日までの事業年度分について法人税、無申告加算税を課せられ、それに伴って県及び市からも、地方税、無申告加算税及び延滞税を課せられる結果となり、その税額は四六五二万八五八〇円にも及んだ。」
2 原判決一八枚目表七行目の「責任の」の次に「所在について」を加え、同八行目の「成り行きを見守っていた」を削り、同末行の「問題を」から同裏三行目までを「責任を回避するような姿勢を取り始めたため、これに反発した組合は右課税問題についての控訴人の責任を問題にし始めた。」と、同裏五行目から同一九枚目裏末行までを次のとおり改める。
「被控訴人法人は、昭和五四年一〇月二五日付の書面で県民生部長から被控訴人法人においては従前各会計区分ごとの貸借対照表を作成していなかったことについて、各会計ごとの財産の状況を明確にするため各会計区分ごとの貸借対照表をも作成するよう指摘を受けていたので、昭和五七年一月ころ、従来から作成していた被控訴人法人全体の貸借対照表のほかに本部、助葬事業、相模福祉センターの三部門につき各部門ごとの貸借対照表をも作成することとした。
ところが、控訴人は右会計区分ごとに貸借対照表を作成することは企業会計原則等からして誤りであると主張して、部下の経理課員に対し、右会計区分ごとの貸借対照表を作成する必要はないとの指示をし、被控訴人法人の右方針に反対した。」
3 原判決二〇枚目表四行目の「部門毎に分離した会計処理を」を「各部門ごとの貸借対照表を作成」と改め、同九行目の「原告の反対を押し切って」を削り、同一〇行目の「した」の次に「が、これについても控訴人は強く反対していた」を加え、同裏一行目の「内容」から同二行目の「あったが」までを「内容は従前と異なるものではなかったが」と、同三行目の「可能」から同四行目までを「可能になると考え、自分の存在が無視されていくという感情を抱くようになった。」と、同六行目の「業務」から同七行目の「月次報告」までを「業務のみをするようになったが、部下との関係が悪化していたこともあって、部下からの資料の提出が遅れ、月次報告書の提出」と、同九行目から同一〇行目にかけての「言うことを聞かず」を「指示に従わず」と、同二一枚目表三行目から同四行目にかけての「て事務局長の叱責を受け」及び同一〇行目の「指導監督し、」を削り、同裏六行目の「何も」の次に「適切な対応を」を加え、同八行目の「会計」から同九行目の「行うとする」までを「前記部門ごとの貸借対照表を作成することについての」と、同末行の「これをしなかった。」を「その処理をしようとしなかったので、」と改め、同二二枚目表三行目から同裏一〇行目までを次のとおり改める。
「 控訴人は、昭和五四年度の予算案の作成に際し、独自の判断で五パーセントの割合による人件費の上昇分を計上して理事から越権行為であると叱責されたことを不満として、それ以降自ら予算案の作成には関与しないと公言して勝手に予算案の作成事務をしなくなり、また、昭和五七年度の決算書の作成に関する事務も行わなかった。控訴人以外の経理課員は岡松及び安藤の二名だけであり、右の結果控訴人が担当すべき事務はすべて岡松及び安藤の負担となっていたため、右職員と控訴人との関係は極めて悪化していた。
また、控訴人は、他の職員との協調性にも乏しく、他に対する思いやりの欠けた言動や、感情的な対応が多く、女子職員からお茶を出されても「そんなものは飲めない」と発言したり、また、部下が昼食の注文を取ろうとしても「敵と一緒に飯が食えるか。」と発言したりすることがあったため、被控訴人法人の職員一般から反感を持たれており、さらに職務に専念せず、勤務態度も良好ではなく、前記の部門別貸借対照表作成の問題や法人税の課税問題の際の控訴人の姿勢もあって控訴人と他の職員との関係も悪化する一方であった。そして、控訴人は、他の職員から次第に疎外されるようになり、職員間の懇親会や慰労会にも誘われなくなった。」
4 原判決二三枚目表一行目の「職場の」を「職場でのけ者にされているとして」と改め、同二行目の「まず」の前に「職場に問題はなく、」を、同三行目の「接す」の次に「る」を加え、同四行目の「自己の味方」を「自分を理解してくれる者」と、同末行の「指示」から同裏一行目の「結局は」までを「に要請がされたが、経理事務を行わない控訴人に代わって長期にわたり経理事務を実際に行っていた岡松はこれに強く反発したため、結局」と、同六行目から同二四枚目表二行目までを次のとおり改める。
「 控訴人と、中田前理事長、被控訴人大島、村松総務部長とが、同月二三日及び同月二七日、控訴人の処遇について話し合い、中田前理事長は、控訴人に対し、困難とは思われるが控訴人の他の施設への転任が実現されるよう被控訴人法人としても協力する旨述べた。その際、控訴人は、転任が実現するまで控訴人を自宅待機としてほしい旨申し出たが、中田前理事長はこれを拒絶した。
同月二九日、中田前理事長の指示を受けた被控訴人大島、村松総務部長は、県を訪れ、控訴人の就職の斡旋を依頼した。」
5 原判決二四枚目表八行目の「六日」から同裏二行目までを「六日及び七日に実施が予定されていた県の指導監査に経理課長として立ち会うこと及び年次有給休暇の請求手続をすることを命じ、また同月三〇日付の書面で、年次有給休暇の残日数が五日間であることを通知するとともに、同月六日及び七日に実施された県の指導監査に立ち会わなかった理由を報告すること及び年次有給休暇の請求手続をすることを命じたが、控訴人は、右各命令にいずれも従わなかった。」と、同六行目の「などと言って」から同八行目までを「ことなどを理由に右紹介先への就職をいずれも断った。」と、同二五枚目表三行目の「具体的仕事がない」を「具体的な仕事が与えられない」と改める。
6 原判決二六枚目表一行目の「転任割愛について法人として協力すると言った」を「控訴人の転任の実現について被控訴人法人としても協力する旨表明した」と、同三行目の「転任割愛が確定」を「転任が実現」と改め、同裏一行目の「働く」を「就労の」と、同二行目の「する解決案の」を「した解決金の支払による解決案を検討する」と、同三行目から同末行までを次のとおり改める。
「同年一一月一八日労働センター職員立会いの下に控訴人と被控訴人法人との間で金銭の支払による解決の方向での話合いが行われ、被控訴人法人から法人の都合による退職の場合の退職金の額は約三〇〇万円であり、それに近い額の退職金を支払うとの解決案が提示された。しかし、控訴人は右の額を大幅に超える六一〇〇万円の支払を要求したため、被控訴人法人は労働センターの職員の立会い方式での交渉による解決は到底不可能と判断して交渉を打切り、以後労働センターの職員の立会いによる交渉には一切応じなくなった。」
7 原判決二七枚目表七行目の「最後の内容証明郵便」を「同月二五日付の内容証明郵便について」と、同裏一行目の「退職金」以下を「退職金を支払うことで、控訴人が被控訴人法人を退職するとの従前と同様の提案をした。」と、同三行目の「条件」を「被控訴人法人の提案」と改め、同五行目の「検討」の前に「控訴人の右新提案を」を加え、同八行目から同三〇枚目裏六行目までを次のとおり改める。
「なお、被控訴人法人は、控訴人が欠勤を始めた同年六月二三日以降のうち、同月二七日は中田前理事長が控訴人を呼び出して勤務態度を改善するよう説得した日であるため出勤したものとして扱い、同年七月一七日から同月二〇日までと同年八月八日から同月一〇日までは控訴人の夏季休暇として、同年六月二三日から同月二六日、同月二八日から同年七月一六日、同月二一日から同年八月七日までの所定労働日は年次有給休暇として扱い、同月一一日以降を無断欠勤として処理した。
以上の事実が認められ、原審における控訴人本人の供述中右認定に反する部分は採用できない。
右によれば、控訴人は、被控訴人法人からの再三にわたる出勤の指示に従わず独自の口実を設けて長期間にわたり欠勤を続けたものであって、被控訴人法人の就業規則第二六条に違反したものであり、控訴人の右行為は第三三条六号、一一号に該当するというべきである。
控訴人は、被控訴人大島が組合活動をする控訴人を敵視して、控訴人から仕事を取り上げ、職場における村八分状態にして控訴人が就労することができない状態を作り出した旨主張する。しかし、前記のとおり、控訴人の職場における対人関係が悪化し、被控訴人法人の他の職員の中で孤立する結果となったのは専ら控訴人自身に原因があるものというべきであるから、控訴人の右主張は理由がない。
また、控訴人は、昭和五八年八月半ばころまでは、被控訴人法人の控訴人の転任割愛を実現させるとの約束に期待して就労しなかったのである旨主張するが、前記のとおり、被控訴人法人が控訴人の転任の実現につき被控訴人法人としても協力する旨約したことは認められるものの、同人の転任を実現させることを約したものとは認められないのみならず、被控訴人法人は控訴人に対し出勤するよう繰り返し指示していたのであり、控訴人が自己の転任の実現についての被控訴人法人の協力を期待していたとしても、そのことが控訴人の不就労を正当化するものでないことは明らかであるから、控訴人の右主張も失当である。
さらに、控訴人は、昭和五八年八月二二日以降は被控訴人法人が控訴人の労務の提供を拒否した旨主張する。しかし、前記のように被控訴人法人の上司や職員と長期間にわたり対立関係を生じた上、不就労を続けていた控訴人に対し、当面の措置として具体的な担当事務のない事務局付の勤務とした被控訴人法人の措置には合理性があるから、これをもって被控訴人法人が控訴人の労務の提供を拒否したものということはできない。
また、控訴人は、無断欠勤を理由に懲戒処分をすることができるのは、欠勤により日常の業務に支障を生ずるおそれがある場合に限られるべきである旨主張するが、そのように解すべき理由はないから、控訴人の右主張も失当である。
そこで、控訴人の再抗弁について判断する。
控訴人は、控訴人が話し合いによる解決を目指して努力している最中に、被控訴人法人が突然無断欠勤等を理由に懲戒解雇したことは、懲戒権を濫用したものであり、また信義則に違反するものである旨主張する。そして、本件解雇の通知が、控訴人が労働センターを通じて新たな提案を行うとの通知をした直後になされたものであることは前記のとおりであるが、そのような経緯があるからといって、控訴人の就労義務が免除され、控訴人の欠勤が正当化されるものでないのみならず、被控訴人法人から再三にわたり出勤を命じられていたにもかかわらず、控訴人はこれに従わなかったものであり、昭和五八年一一月一八日以降は被控訴人法人と控訴人間に話合いによる解決について合意が成立する見込みはなくなっていたというべきであるから、このような事情の下でなされた本件解雇が懲戒権の濫用に当たり、信義則に違反するとはいえないことが明らかである。したがって、控訴人の右再抗弁の理由がない。
以上によれば、被控訴人法人が就業規則三四条所定の制裁のうち懲戒解雇を選択してした控訴人に対する解雇は有効であり、本訴請求のうち、控訴人が、被控訴人法人との間で労働契約上の地位を有することの確認を求める請求は理由がない。
三 次に、控訴人の損害賠償請求について判断する。
前記のとおり、被控訴人大島が組合活動をする控訴人を敵視して、控訴人から仕事を取り上げ、控訴人が職場内で孤立するよう工作したとは認められず、控訴人の職場における対人関係が悪化し、被控訴人法人の他の職員の中で孤立する結果となったのは専ら控訴人自身に原因があるものというべきであるから、被控訴人大島に右不法行為があったことを前提とする控訴人の損害賠償請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がない。
四 次に、控訴人の未払賃金及び賞与の支払請求について判断する。
被控訴人法人が昭和五八年一二月に控訴人に対して支給すべき賞与のうち五九万九九四七円が未払であることは当事者間に争いがないが、同年八月から本件解雇の意思表示がなされた同年一二月二九日までの控訴人の不就労は被控訴人法人の責に帰すべき事由によるものとは認められず、また、本件解雇が違法とはいえないことは前記のとおりである。そして、(証拠略)によれば、被控訴人法人における一二月期の賞与の支給日は一二月五日であることが認められ、被控訴人法人が控訴人に対し昭和五八年一二月五日に支給すべき賞与五九万九九四七円につき、控訴人に対して弁済の提供したこと又は控訴人がその受領を拒絶したことについての立証はないから、同被控訴人に対し賃金及び賞与の支払を求める控訴人の請求は、右賞与五九万九九四七円及びこれに対する弁済期日の後である昭和五九年八月二一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は失当というべきである。」
二 以上によれば、控訴人の本訴各請求は、被控訴人法人に対し、右未払賞与五九万九九四七円及びこれに対する昭和五九年八月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める部分に限り認容し、その余はいずれも棄却すべきであり、本件控訴は右の限度で理由があるから、原判決中被控訴人法人に関する部分を主文のとおり変更するとともに、被控訴人大島に対する控訴及び当審において拡張した請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九五条、九六条、八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 菊池信男 裁判官 吉崎直彌 裁判官奥田隆文は、転補のため、署名押印できない。裁判長裁判官 菊池信男)